ぷかり堂の社会見学
~ ariga-to 編 ~
「人2万、サル2万、シカ2 万」
これはかつての屋久島を表す言葉です。そして、この島には今もなお、多くのヤクザルやヤクシカが生息しています。トレッキング中やドライブ中に、彼らの姿を見たという方もたくさんいるのではないでしょうか?ヤクシカは屋久島と口永良部島にのみ生息する二ホンジカ亜種の一つで、小柄で愛らしい姿が特徴的です。
今回はそんなヤクシカの柔らかな革を使い、極上の革製品を仕立てるariga-toのアトリエにお邪魔してきました!

ariga-toのアトリエがあるのは、屋久島最北に位置する一湊。古くから漁業が盛んな集落で”屋久島一の港”と書いて”一湊(いっそう)”と読みます。そんな港町の入口に、ランプの灯った建物があります。

中に入ると、1人の可憐な女性がお出迎えしてくれました。
こちらがヤクシカ革作家の清水舞さん。2013年に旦那様とともに屋久島に移住。当初はダイビングのガイドとして屋久島の海に潜っていたそうです。屋久島に来て2年ほど経ったころ、首のヘルニアを発症。ドクターストップがかかり、ダイビングガイドを辞めることに…。
子どものころからモノ作りが好きだった清水さんは革製品を作ることにしました。
「昔からモノ作りが好きで、母の洋服は全部手作りしていたと言っていいほど、実は洋裁も大好きだったんです。でもお洋服をつくると なるといろんなものが大きい。出来上がる服も材料となる生地も…。それと比べると革細工は大体のものが手の中で納まるんですよね。それがなんとも愛おしくて^^」
そうして4年前に革製品を扱い始めました。ヤクシカの革を扱い始めたのは3年前だと言います。

小柄でかわいらしいヤクシカですが、近年ヤクシカの食害による農作物の被害が問題となり、ヤクシカは駆除の対象になりました。屋久島島内では駆除されたヤクシカを有効利用するために食肉用に解体する施設が生まれました。清水さんはその施設の方から、ヤクシカの革を使ってみないかと声をかけていただいたそうです。革、それは私たちの食事の副産物。
ariga-to という名前には、「いただいた命に感謝する」という意味が込められています。

ariga-toのアトリエにはヤクシカ革や牛革などの革が並んでいました。これらは作品によって使い分けられているそうです。ここに写っているのはほんの一部ですが、色んな色がありますね!今回はヤクシカ革を使ったキーカバーとキーホルダーの製作工程を見せていただくことにしました!

ガシャン!
まずは裁断機を使って革を型抜きします。一瞬の出来事でカメラが追いつきませんでした!一見、簡単そうにみえるこの作業ですが実はプロの技!ヤクシカ革は牛革などに比べて柔らかく、力加減が難しいのだそう。さらに、元々厚みのある革を均等の厚さにスライスして使う牛革に対して、ヤクシカ革は元々の革が薄く、そのままの状態で使用するのでヤクシカの個体によって厚さに差があるのだといいます。絶妙な力加減で型を抜かないと、ゴム板に革が食い込んだり裁断できなかったりするそうです。いとも簡単そうに型を抜くので、その姿から難しさを感じとることはできませんでした!

まずはキーホルダーづくりから。
キーホルダーは2枚の革を重ね合わせてつくられています。先ほども記載した通りヤクシカの革は薄く1枚では少し頼りないため、表面はヤクシカ革を使用し裏面は牛革を使って強度を補っています。

そのあとトコノールというクリームを側面と裏面に。これは皮の表面のケバケバを抑え、つやを出すためのクリームです。カビを防ぐ役割もあります。
丁寧に丁寧に。
清水さんの表情から作品に対する愛が伝わってきますよね。

キーホルダーにするための金具をとりつけ、このあと先ほど重ねた革を縫い合わせていきます。
これは縫いやすいように印をつけているところ。綺麗な仕上がりにするには大事な工程です!

ステッチの準備ができたらいよいよ縫い合わせていきます。両面からミシンのように縫い合わせるそうです。両手に針を持ち、素早い手さばきで縫い合わせる清水さん。素晴らしい二刀流です!!
こうして丁寧に手縫いをすることで丈夫で美しいステッチに仕上がります。